DX(デジタルトランスフォーメーション)は、まず〇〇の転換から始めよう
Table of Contents
DX(デジタルトランスフォーメーション)がもたらす未来
DXは、どのような未来をもたらすでしょうか?
その素晴らしい未来を明確にイメージできていますか?
前回の記事で、「DX(デジタルトランスフォーメーション)はバックキャスティングで進めよう」という内容の記事を書きました。
多くの企業がDXに関心を持ち、DXに関する取り組みを検討、あるいは進めていますが、残念ながら成功している企業は多くありません。
その理由の一つに、ゴールが明確になっていないことを挙げることができるでしょう。
DXによって「どのような社会課題を解決し、社会にどのような価値・体験を提供するのか」が明確に定義されないままに取り組みがスタートして、結局、部分的な業務の「デジタル化・IT化」で終わってしまう。
そのようなケースが散見します。
実際に、「営業のDX」「人事のDX」「工場管理のDX」というように、部分的な業務のデジタル化をDXと称した商品がたくさんあります。
DXを進めるにあたって、自社には知見もIT技術もないため、ITベンダーに開発を依頼するケースがほとんどです。
しかし、ITベンダーは貴社の未来を設計することができません。
貴社の未来の姿を設計するのは貴社なのです。
ですから、少なくともITベンダーに声をかける前に、DXによってもたらされる未来像は、貴社が明確化しておく必要があります。
バックキャスティングでDXを設計する最大の困難とは
DXを通じて、貴社はどのような社会または顧客の課題を解決し、どのような新たな価値・体験を提供しますか?
その結果、貴社のDXによって社会、顧客、会社、社員はどのように変わりますか?
まずは、DXがもたらす未来絵姿を描くところからスタートしなければなりません。
この作業には、時間がかかるでしょう。
決して容易なことではないはずです。
そして、この作業には思わぬ困難が立ちはだかる可能性が高いのです。
DX推進に最も大きな影響を与えるものは何でしょうか?
それはメンバーのマインドセットです。
「精神論」に拒絶反応を示すビジネスパーソンも少なからずいますが、単なる精神論ではなく、現実的な話としてお伝えします。
DXは変革です。
変革はまさに有事であり、平常時のマインドセットのままではうまくいきません。
変革のためのマインドセットに転換する必要があります。
ここで言うマインドセットとは企業内で共有されている「価値観」のことを指します。
価値観は思考に影響を与え、思考は意思決定、そして発言や行動に影響を与えます。
社内制度や管理体制は価値観をベースに構築されます。
果たして、企業は自ら構築した価値観によって、行動を制限されていくのです。
平常時の価値観は逸脱を制御し、平常運転を維持するために役立ちます。
一方で、ほとんどの場合、変革を促す力とは逆に作用するのです。
この記事では、「価値観」の転換について2つのポイントを指摘したいと思います。
一つは「具体化思考からの脱却」。
そして、もう一つは「効率化の呪縛から抜け出す」ことについてです。
DXに適したマインドセットに転換|具体化思考からの脱却
筆者は、クライアント企業のDX推進やその他プロジェクト推進のお手伝いをしたり、社員研修を提供したりしている中、ある確信めいたものを抱くようになりました。
それは、日本のサラリーマンは、テーマを与えれば、それがどんなに困難なテーマであったとしても、困難を乗り越えるための具体的な解決方法を見つけ出すことができるというものです。
だれが、いつまでに、何を、どのくらいの予算で、どのようなアクションをとるかを整理することにおいて、極めて優秀なパフォーマンスを発揮します。
つまり、HOW(どうやるか)を問う「具体化の思考」に優れているということです。
一方で、なぜ、なんのために、だれのために、を問う思考である、「抽象化」の思考と技術においては、弱さを感じます。
おそらく、学校生活において「正解ありき」の問題を解くための記憶力と処理能力を鍛える教育を受けてきたこと。
そして、日本の高度成長時代に「良いものをたくさん作れば会社は成長する」という、言わば「正解が明確」であった時代の成功体験が後を引き、指示を確実かつ迅速に処理する能力ばかりが鍛えられたのではないかと思っています。
「具体化の思考」と「抽象化の思考」についてイメージを共有するために、一つの例を挙げます。
ある課長が、「全社員を忘年会に出席させたい」と思ったとします。そうすると、この課長は全社員を忘年会に出席させるために「どのような手段を適用するか」を考えます。
思いついた数ある手段の中から、いくつかを選択し実行するでしょう。
全社員を忘年会に出席させるために行動します。
結果、その課の社員は、業務外の時間に無給で拘束されることに嫌悪感を覚えて、退職を考えるかもしれません。
これは、この課長が「具体化の思考」を発揮した結果です。
もし、この課長が「抽象化の思考」を使っていたらどうなったでしょうか。
「全社員を忘年会に出席させたい」と思った課長は、なぜ自分はそのように思うのかを考えます。すると、「社員どうしの親睦を深めたい/もっとお互いを良く知ってほしい」ことが理由だと気が付きます。
さらに、その理由を掘り下げると、「仲間意識と活気のある職場を作りたい」という自分の願望が見えてきました。
さらに、その理由を深堀したところ、「離職者を減らしたい」というのが、自分の本音だと分かりました。
近年、課内の離職者が多いため教育の負担が増えて、業務が円滑に回っていない状況が続いていました。
さて、この課長が「離職者を減らしたい」というテーマを出発点としていたらどのような手段が考えられるでしょうか。
おそらく、「全社員を忘年会に出席させる」という手段は選択しないのではないでしょうか?
抽象化の思考は、手段に対する目的を深堀します。
なぜなぜを繰り返して上流にさかのぼり、真の目的を見出し、テーマ(出発点)を変えるのです。出発点を変えることで、選択肢が広がります。
つまり、「忘年会に出席させる」を出発点にすれば、できることは限られていますが、「離職者を減らす」を出発点にすれば、選択肢が広がり、さらに効果の高い施策を選ぶことができます。
少し極端な例になりましたが、日本のサラリーマンは、テーマが与えられると即座にその実現手段を考え始める(具体化の思考)ものの、テーマの目的や意味・意義を深堀する(抽象化の思考)習慣が乏しいのではないでしょうか。
結果、手段の目的化に陥りやすい傾向があると感じています。
実は、DXのような変革には、この抽象化の思考が欠かせません。
「DXをやろう」と言うテーマが与えられると、多くの社員は「どうやってやろうか」「どんなツールを導入しようか」と手段を模索し始めますが、もっと重要なことは、なぜ、なんのために、だれのために、を問うことなのです。
ですから、DXを推進するためには、「具体化の思考」の前に、DXのビジョンとミッションを描く「抽象化の思考」を取り入れなければなりません。
繰り返しになりますが、抽象化をした上で、具体化することによって貴社が採用できる選択肢が広がります。
多くの場合、日本のサラリーマンは抽象化思考の習慣がないため、苦労するポイントだと思います。
「具体化の思考」は、あらゆる検討場面で顔をのぞかせ、選択肢を狭めてしまいます。
DX推進にあたって、手段の目的化に陥らないように常に注意する必要があります。
DXに適したマインドセットに転換|効率化の呪縛から抜け出す
多くの企業内で共有されている「価値観」の一つに、「効率化の追求」があります。
効率化の考え方は、多くの場合はDXの推進において阻害要因となります。
効率化と言うのは、
例えば「時間を○○時間短縮」とか「コストを20%ダウン」と言うように絶対的な正解があって、その実現手段を考えるという思考ベクトルとなります。
別の言い方をすると、効率化の目的は、より少ないリソースで同等のアウトプットを実現することです。
一方、DXにおいては、アウトプットが決められていません。
したがって、どのようなアウトプットをして、社会または顧客の課題を解決し、新たな価値・体験を提供するかは、効率化の考えからは生まれません。
実は効率化の考えは、あらゆる場面で顔を出してきます。例えば、DXのビジョンを検討する会議をしたときに、できるだけ早く・簡単に答えを出そうとする、という雰囲気はないでしょうか。
無から有を生み出すようなクリエイティブな作業に対して、効率を求めると、当たり障りのないアウトプットしか生まれてこないでしょう。
改革を検討するシーンや、DXのビジョンを検討するようなシーンでは、効率ではなく効果(あるいは価値の最大化)を優先する必要があります。
ビジネスの様々なシーンで重要視されてきた「効率化」の考えは、正解が明確な、言わば平常時の手法と言えます。
より少ないリソースで正解を出すための施策であり、正解から逸脱しないための施策です。
しかし、前述のとおりDXは変革です。
平常時のマインドセットのままでは、うまくいかない可能性が高いでしょう。
DX推進においては、抽象化の思考と、効率ではなく効果(あるいは価値の最大化)を優先する思考がとても重要なカギを握ると言えます。これは、まさにマインドセットの転換です。
マインドセットは私たちの視野を狭くし、思考と行動を制限します。
選択肢を広げ、DXの成功に近づくために、
まずは関係者のマインドセットの転換をしなければなりません。
お問い合わせ